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大阪高等裁判所 昭和56年(ラ)41号 決定 1981年7月14日

抗告人 大阪市

右代表者市長 大島靖

右代理人弁護士 色川幸太郎

同 石井通洋

同 高坂敬三

同 間石成人

相手方 日新ステンレス株式会社

右代表者代表取締役 楊原権三郎

<ほか一名>

右両名代理人弁護士 密門光昭

相手方 春名工業所こと 春名潤一

<ほか一名>

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一  本件抗告の趣旨と理由は別紙(一)、(二)記載のとおりであり、これに対する相手方らの答弁は別紙(三)記載のとおりである。

二  当裁判所の判断

(一)  本件抗告理由の要旨は、原決定が抗告人の本件仮処分申請につき、保全の必要性についての疎明がないとしてこれを却下したのは不当である、というにある。

そこで案ずるに、記録によれば、抗告人は昭和四七年三月七日に相手方楊を被申請人として大阪地方裁判所に原決定添付別紙第一目録記載の土地のうち同別紙図面赤斜線部分の土地(以下第一次仮処分地という)とその地上の未完成建物について執行官保管等を内容とする占有移転禁止の仮処分を申請し同裁判所昭和四七年(ヨ)第四六一号不動産仮処分申請事件として係属し右同日同裁判所において仮処分決定(以下第一次仮処分という)を得、同年三月八日にその執行を了したこと、さらに抗告人は昭和五〇年一二月二五日に相手方楊を申請人として大阪地方裁判所に原決定添付別紙第一目録記載の土地のうち同別紙図面青斜線部分の土地(以下第二次仮処分地という)について執行官保管等を内容とする占有移転禁止の仮処分を申請し同裁判所昭和五〇年(ヨ)第四一八七号不動産仮処分申請事件として係属し右同日同裁判所において仮処分決定(以下第二次仮処分という)を得、右同日その執行を了したこと、相手方楊および同人が代表者である相手方日新ステンレス株式会社(以下相手方日新ステンレスという)の両名は昭和五四年四月三〇日に原決定添付別紙第二目録(一)記載の建物(以下(A)建物という)を建築して相手方日新ステンレス名義で所有権保存の登記を了し、昭和五五年九月頃に原決定添付別紙第二目録(二)記載の建物(以下(B)建物という)、同目録(三)記載の建物(以下(C)建物という)を建築したこと、右の(A)建物は第一次仮処分地上にあった執行官保管中の未完成建物をとりこわしたうえ、右第一次仮処分、第二次仮処分において執行官保管となっている土地上に建てられ、(B)建物、(C)建物はいずれも第二次仮処分において執行官保管となっている土地上に建てられていること、相手方春名工業所こと春名潤一、同福田製作所こと坂井秋男はそれぞれ(A)建物の各一部を占有してこれを使用していること、が一応認められる。

(二)  抗告人は、相手方楊が第一次、第二次仮処分にいずれも違反して客観的な現状変更をなし、右各仮処分地を相手方日新ステンレスらに占有せしめることにより主観的現状変更をなしたことを理由としてその原状回復の方法として、右相手方楊及び同人が代表者である相手方日新ステンレスに対し(A)建物、(B)建物、(C)建物の各収去と第一次、第二次、仮処分地を含む原決定添付別紙第一目録記載の土地の明渡しを求める断行の仮処分を求め、相手方春名潤一、同坂井秋男に対し(A)建物の各占有部分からの退去を求める断行の仮処分を求めるものである。

ところで右の第一次仮処分、第二次仮処分の各決定においては「物件の現状を変更しないことを条件として」相手方楊に対しそれぞれの仮処分の目的たる土地(第一次仮処分においては土地の外に未完成の建物)についての使用を許可しているものであることが《証拠省略》により明らかであるところ、右の「物件の現状を変更しないことを条件として」なる文言の意味するところは、占有移転禁止の仮処分が目的物件の状態を仮処分執行時のままに維持し明渡請求権に基づく執行を保全するためになされることに鑑みれば、相手方楊に対し現状を変更しない旨の不作為命令であると解すべきものである。相手方楊及び同人が代表者たる相手方日新ステンレスが右疎明事実のとおり仮処分決定による不作為命令を無視した所為に及んだことは、執行妨害を目的とするものと疑われてもやむをえないところであり、非難されるべきこと多言を要しない(相手方楊、同日新ステンレスは、消防署、大阪市環境保健局等より施設改善の指示命令等を受けたため仮処分決定に反して建物を建築したものと主張するが、《証拠省略》によってはかかる主張事実の疎明があるとはいえないし他に右主張事実を認めるに足りる資料はない。)。

ところで一般に建物収去土地明渡の断行仮処分申請については、それが終局判決によることなく権利を実現する結果をもたらすものである以上、これを認容するについては被保全権利についての高度の疎明を要することはもとより、その必要性の点についても本案訴訟による権利の実現を待つことができず断行仮処分の方法をとらざるを得ない緊急にさし迫った事情が存する等の点についての疎明を要するものであることあらためていうまでもないところ、一件記録を仔細に検討するのに、本件仮処分申請が第一次、第二次の各占有移転禁止の仮処分に違反して相手方楊が客観的現状変更をなし、相手方楊が代表者である相手方日新ステンレスが右各仮処分の土地を占有する等の主観的現状変更をなしたことを理由とする原状回復の方法としての仮処分申請であって一般の建物収去土地明渡の断行仮処分申請とは趣を異にするものであることは必要性判断の一事由とはなしえてもなお前記の断行を求めるに足る格別、緊急の必要性は必要というべく(この点の抗告人の所論は採用し難い。)、現時点においてはいまだ断行の仮処分を認めるに足る格別、緊急の必要性の点について疎明があるものとは認められない。

(三)  以上のとおりであって、抗告人の本件申請を却下した原決定は結論において相当であるから、本件抗告はこれを棄却することとし、抗告費用は抗告人に負担させることとして主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 今富滋 裁判官 藤野岩雄 亀岡幹雄)

<以下省略>

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